2015/03/14

犬糸状虫症

犬糸状虫、フィラリア。そろそろ予防シーズンに入る。

ショックや溶血など強い症状を伴う急性症だけでなく、じわじわ蝕む肺高血圧、肝不全による腹水症も見ていて辛い病気である。

元気食欲なく辛そうな子が来院された。昨年からフィラリア症で治療中だったが、どうも肝不全の段階になってしまったのか、腹水がなかなか引かない。食欲はなく、ジリジリと痩せてきている。

腹水を抜くことは一時しのぎではあるが、高血圧を助長する、呼吸困難や食欲不振の原因と考えられるときは抜くことがある。

腹水中にもフィラリア幼虫
局所麻酔下でお腹に針をさすと、薄い赤褐色の液が2リットルも抜けた。皆、複雑なため息を付いた。なんとか食欲を取り戻してほしい。

ふと抜けた液体を見るとなんだか泳いでいるものがいた。フィラリアだった!?

最近、見ることが少なくなったフィラリア症だが、根本的に治療ができない以上、これまで以上に予防を啓蒙しなければと心に刻んだ。

2015/03/13

門脈シャント

門脈シャント、門脈体循環短絡症、いろんな呼び方がある。調べてみると、イギリスの外科医John Abernethyが1793年に、内臓逆位の症例で発見している。獣医学領域では1974年にAudell, Ewingらが別々に報告しているのが最古のようだ。それからしばらく注目されなかったのは、診断が難しかったからだろう、CTによる全身検索が広まった2000年台から、人医領域でも成長期の疾患として認識され報告が増えてきた。人医領域、獣医療域が同レベルの歴史を持つまれな疾患である。

病気としてはシンプルだ。胎子が育つ過程でなくなるはずの血管が残ってしまった、もしくは胎子の頃に発達するはずの血管ができずに他の血管がその代わりに発達してしまったという奇形である。しかしその影響は時に深刻になり、めまいや痙攣発作を起こすこともある。人ではかつて、精神疾患ではないかと精神科を紹介されることもあったらしい。そして肝臓が育たないせいで虚弱になる。症状が軽い場合もあり、大人になってからたまたま発見される場合もある。

治療に目を向けると、異常な血管をなくせばいいのだから、傍から見ればシンプルな異常だ。しかし、どうも本人にとってはそう簡単なことではないらしい。ときに治療を困難なことがある。思うに、その状況に生まれて適応しながら成長したということが、病気をより複雑にしているのだろう。

術後発作症候群と呼ばれる、いまだ病態解明が不完全な合併症がある。手術後3~5日後に1割程度の可能性で原因不明のけいれんが出てしまい、場合によっては難治性で命にかかわる。血液凝固因子の不足による出血や門脈高血圧症など、病態がわかっており対処できる合併症と異なり、この痙攣発作は出ないことを祈り、出てしまったら発作を止める最大限の処置を行って回復を祈るしかない。しかも不思議なことに人医領域ではこの合併症の発生が報告されていないので、獣医は未だお手上げ状態である。

今回も、やることはやった、あとはただただ祈るのみである。

2015/03/08

胆嚢粘液嚢腫

胆嚢の不思議については前回話した(胆嚢摘出)。粘液嚢腫は閉塞→貯留という単純な問題ではないようだ。どうして過剰な粘液産生のスイッチが入ってしまうのだろうか。

胆嚢を肝臓から丁寧に剥離する
今回の症例は、より慢性重度であり、破裂こそ殆どなかったものの、切除範囲の決定にしばしの躊躇せざるを得なかった。
粘液貯留はすでに胆嚢管を越え、内側右葉肝管まで閉塞させていた。やむを得ず切開し、肝管内洗浄。おそらくメインの肝管はすでに機能しておらず、他の葉へのシャントが形成されているのだろう。肝管内の胆管上皮も壊死のためか変色していたため、裂開をさけるため切除とした。