2014/08/27

消化管リンパ腫

腸という臓器は単純な管のようだけれど、実は最も難解な臓器の一つである。食べたものを身体に取り込むという大事な役割をしているだけではない。その神経支配は脳に例えられ、全身循環における役割は心臓のようであり、免疫の最前線でもある。

それ故か、見た目の変化が小さくとも、その変調は容易に症状となって現れる。それは即ち、異常の原因を捉えるのが容易ではない事を示している。
決して言い訳をしているのではない。
事実、腸管の病理組織検査は、病理の専門医が集まったって、意見が割れてしまう。これは論文になるほど有名な話だ。

そんなことを改めて思い知らされる症例がいた。

下痢を主訴に消化器内科を受診し、お腹の中に不自然なしこりがある以外異常がないため試験開腹となった。

開腹すると、確かにしこりはあったが、膀胱の表面から突出したしこりだった。良性の平滑筋種を思わせる外観である。恐らく下痢とは関連がないだろう。

ではなぜ?よく見れば、小腸は一様に変色し、一部は生気を失っていた。お腹を開けるまでは分からなかったが、小腸は全体に何かに侵されていた。すぐに腸管の組織検査が行われ、迅速診断の結果は「リンパ腫疑い」となった。これには手術を見にきてきたいた内科の先生も驚いていた。診断が腸炎と覆ることもあろうが、何れにせよ予想外の結果だった。

あのまま手術をせずに経過を見ていたら発見がさらに遅れていたとおもうと恐ろしい。身が引き締まる思いがした。


2014/08/06

偶発所見としての肺腫瘤(肺がんを疑う)

CT 3DMPR(MIP)でみた腫瘤
別疾患の検査で行われたCTで初期の肺がんを疑う所見が見つかった。深部腫瘤で小型であり経皮的生検は安全ではない。しかしこの大きさで肺葉切除すべきなのか。CTを読み込むため、3DMPR像で血管との位置関係を確認。さらにMIP処理を行い、スライスを重ねると腫瘤は後葉のへん縁であり、肺葉部分切除で摘出可能と判断できた。


CT通りの場所に見つかった
開胸すると、CTでの予想通り、肺後葉に小腫瘤が顔を出した。肺がんだとしても部分切除で完全切除が可能である。

肺葉部分切除は、自動縫合器で行うべきである。空気も漏れない確実な縫合が瞬間的にできる。手動では数倍の時間と労力を要する。

肺葉切除であれば、右肺後葉という大きな葉を切除することになる上、右後葉のやや複雑な静脈系を相手にしなければならない。部分切除で切断することで、安全な切除が可能となり、2/3以上の正常な肺後葉を残すことができた。






縫合と切除を達成



2014/08/05

胆嚢摘出(胆嚢粘液嚢腫)

胆嚢破裂

 胆嚢は、肝臓で作られた胆汁を溜めておく袋である。肝臓から十二指腸へ続く胆管の途中にあり、肝臓から胆汁を入れて、食事という刺激に呼応して消化管へ胆汁を流している。しかしなぜか心臓と異なり、出入口が一つしか無い。これでは消化管だけではなく肝臓へも逆流してしまうではないか。なんとも不完全な構造に思えるが、そこは肝管、胆嚢、胆管の収縮が複雑に調節されて協調しているからこそうまく成り立つのだろう。
 この複雑な構造故なのか、胆汁が胆嚢にうっ滞してしまうことがある。その中で胆嚢粘液嚢腫と名付けられた「病気」がある。超音波検査での見た目が「キウイフルーツ」に例えられるため比較的容易に見つかる。しかしこの「病気」は単純ではなく、薬でよくなることもあれば、薬に反応せず、破裂という重大な結果を生じて緊急手術を要することもある。恐らく原因が一つや二つではないのだろう。
 胆汁は消化吸収を助ける酵素であり破裂によりお腹の中に広がると重大な腹膜炎を生じる。また、消化管の細菌が胆嚢内に感染していることがあり、これも腹膜炎を悪化させる。これらの重度腹膜炎を、投薬によってコントロールすることは不可能であり、決して安全な状況ではないが、手術しなければならない。
 今回も昨日体調が急変したとのこと。切迫した状況で、手術の必要性を説明した。血漿輸血を行い、最大限からだを整えた後、開腹。急変の可能性を説明していたため、破裂してから手術まで迅速を行うことができたためだろう、癒着は最低限であった。破裂部位からは手術中も胆泥の漏出があったものの短時間で胆嚢摘出を終えることができ、腹腔内を十分に洗浄して閉腹した。
 手術前、危険因子である膵炎を疑う所見があり、手術後も予断を許さない緊張度の高い手術であった。膵臓に炎症が波及した場合もしくは膵炎がもとにある場合、治療は困難を極める。
 幸い容態は安定している。無事退院されることを願う。