腸という臓器は単純な管のようだけれど、実は最も難解な臓器の一つである。食べたものを身体に取り込むという大事な役割をしているだけではない。その神経支配は脳に例えられ、全身循環における役割は心臓のようであり、免疫の最前線でもある。
それ故か、見た目の変化が小さくとも、その変調は容易に症状となって現れる。それは即ち、異常の原因を捉えるのが容易ではない事を示している。
決して言い訳をしているのではない。
事実、腸管の病理組織検査は、病理の専門医が集まったって、意見が割れてしまう。これは論文になるほど有名な話だ。
そんなことを改めて思い知らされる症例がいた。
下痢を主訴に消化器内科を受診し、お腹の中に不自然なしこりがある以外異常がないため試験開腹となった。
開腹すると、確かにしこりはあったが、膀胱の表面から突出したしこりだった。良性の平滑筋種を思わせる外観である。恐らく下痢とは関連がないだろう。
ではなぜ?よく見れば、小腸は一様に変色し、一部は生気を失っていた。お腹を開けるまでは分からなかったが、小腸は全体に何かに侵されていた。すぐに腸管の組織検査が行われ、迅速診断の結果は「リンパ腫疑い」となった。これには手術を見にきてきたいた内科の先生も驚いていた。診断が腸炎と覆ることもあろうが、何れにせよ予想外の結果だった。
あのまま手術をせずに経過を見ていたら発見がさらに遅れていたとおもうと恐ろしい。身が引き締まる思いがした。