2015/04/22

また脂肪腫

立て続けに脂肪腫。珍しい病気は、不思議と続くものだ。

主訴は、眼球突出。頭部の形はあまり変わっていないが、CTでは側頭筋を置換しながら、腫瘤が拡大していた。浸潤性脂肪腫である。

腋窩の脂肪腫も珍しいが、側頭筋内に発生した浸潤性脂肪腫は初めての経験だった。腫瘍だけを筋肉や骨から分離することは再発必至であり無意味に思えた。頬骨、下顎垂直枝に接し、頭蓋骨にも近接していた。もちろん、眼球、頬骨腺、眼窩の脈管も近い。しかし、これまでの経験上、このCT画像、脂肪腫の性質上、側頭筋内に限局しているだろうから、頬骨および下顎垂直枝部分切除を行えば、en blocで切除できると根治を目標に立てた。

大型犬の咬筋および側頭筋は分厚く、下顎垂直枝の切断はかなり深部での操作になった。顔面神経は目視で確認し切断を避けた。また下顎内側の筋付着を処理する際、やや視野が狭く難があったが、ライトつきの拡大鏡のお陰で確実な処理ができた。CTで不安視された眼球、頬骨腺への浸潤はなく、側頭筋ごと一括切除できた。術後、顔面神経麻痺、開口閉口障害などの合併症もなく、退院している。

北大の細谷先生が以前に、浸潤性脂肪腫は罹患筋を中心に攻めれば再発しないのでは?と症例発表している。そうあってほしい。

2015/04/15

腋窩脂肪腫

CT-3DMPR
腋窩にしこり

脂肪腫は、犬では肥満細胞腫についで多く見られる、良性の腫瘍である。身体の何処にでも見られるが通常は体調に影響しないので、経過観察となることが多い。しかしできた場所によっては問題となる。また、浸潤性を示す場合、悪性腫瘍のように適切な切除が必要な場合がある。

これまで手術したのは、ほとんどが大腿部筋間脂肪腫、ときどき会陰部・骨盤内脂肪腫だった。今回は、腋窩(上腕内側)筋間。これまで腋窩は1度しかみたことがない。腋窩は、腕に分布する血管神経が豊富であり、今回も上腕動静脈、頭側皮静脈などが変位していた。明らかな浸潤性はみられず、筋間脂肪腫と判断した。進行緩徐で、症状がなければ経過観察したいところだが、腫瘤拡大、跛行ありのため、手術となった。

CTでアプローチを熟考し、上腕内側を遠位から近位方向へ切開し、胸部では腋窩を覗きやすく、深胸筋の走行を確認しやすいように頭尾方向へと半円状に切開を拡大した。

深胸筋を部分切除し深部を確認したところ、その腱膜下に発生した筋間脂肪腫で浸潤性は低いと分かった。栄養血管は上腕動脈から分岐しており、腕への血流を確保。重要な腕神経叢も圧排のみで剥離可能であった。

術後1週間程度で、手術前の疼痛は快方に向かっている。脂肪腫による腕神経叢圧迫が原因だったのだろう。