立て続けに脂肪腫。珍しい病気は、不思議と続くものだ。
主訴は、眼球突出。頭部の形はあまり変わっていないが、CTでは側頭筋を置換しながら、腫瘤が拡大していた。浸潤性脂肪腫である。
腋窩の脂肪腫も珍しいが、側頭筋内に発生した浸潤性脂肪腫は初めての経験だった。腫瘍だけを筋肉や骨から分離することは再発必至であり無意味に思えた。頬骨、下顎垂直枝に接し、頭蓋骨にも近接していた。もちろん、眼球、頬骨腺、眼窩の脈管も近い。しかし、これまでの経験上、このCT画像、脂肪腫の性質上、側頭筋内に限局しているだろうから、頬骨および下顎垂直枝部分切除を行えば、en blocで切除できると根治を目標に立てた。
大型犬の咬筋および側頭筋は分厚く、下顎垂直枝の切断はかなり深部での操作になった。顔面神経は目視で確認し切断を避けた。また下顎内側の筋付着を処理する際、やや視野が狭く難があったが、ライトつきの拡大鏡のお陰で確実な処理ができた。CTで不安視された眼球、頬骨腺への浸潤はなく、側頭筋ごと一括切除できた。術後、顔面神経麻痺、開口閉口障害などの合併症もなく、退院している。
北大の細谷先生が以前に、浸潤性脂肪腫は罹患筋を中心に攻めれば再発しないのでは?と症例発表している。そうあってほしい。
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