門脈シャント、門脈体循環短絡症、いろんな呼び方がある。調べてみると、イギリスの外科医John Abernethyが1793年に、内臓逆位の症例で発見している。獣医学領域では1974年にAudell, Ewingらが別々に報告しているのが最古のようだ。それからしばらく注目されなかったのは、診断が難しかったからだろう、CTによる全身検索が広まった2000年台から、人医領域でも成長期の疾患として認識され報告が増えてきた。人医領域、獣医療域が同レベルの歴史を持つまれな疾患である。
病気としてはシンプルだ。胎子が育つ過程でなくなるはずの血管が残ってしまった、もしくは胎子の頃に発達するはずの血管ができずに他の血管がその代わりに発達してしまったという奇形である。しかしその影響は時に深刻になり、めまいや痙攣発作を起こすこともある。人ではかつて、精神疾患ではないかと精神科を紹介されることもあったらしい。そして肝臓が育たないせいで虚弱になる。症状が軽い場合もあり、大人になってからたまたま発見される場合もある。
治療に目を向けると、異常な血管をなくせばいいのだから、傍から見ればシンプルな異常だ。しかし、どうも本人にとってはそう簡単なことではないらしい。ときに治療を困難なことがある。思うに、その状況に生まれて適応しながら成長したということが、病気をより複雑にしているのだろう。
術後発作症候群と呼ばれる、いまだ病態解明が不完全な合併症がある。手術後3~5日後に1割程度の可能性で原因不明のけいれんが出てしまい、場合によっては難治性で命にかかわる。血液凝固因子の不足による出血や門脈高血圧症など、病態がわかっており対処できる合併症と異なり、この痙攣発作は出ないことを祈り、出てしまったら発作を止める最大限の処置を行って回復を祈るしかない。しかも不思議なことに人医領域ではこの合併症の発生が報告されていないので、獣医は未だお手上げ状態である。
今回も、やることはやった、あとはただただ祈るのみである。
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