インスリノーマとは、膵臓ランゲルハンス島のインスリン分泌細胞の癌である。インスリン過剰のため、低血糖症状を示すその典型的な症状から発見が早い。膵臓やその他の臓器に発見された腫瘤は切除する。すでに転移している場合には長期生存はあまり望めない癌である。
外科医としては、実は膵臓はあまり好きではない。機嫌を伺うのが難しいのだ。
膵臓は血糖値をコントロールするインスリンを作っているだけではなく、蛋白を消化する強力な消化液を作っている。その消化液は普段は自分の身体を溶かさないようになっているが、きっかけをもらうと自分の身体であろうと消化してしまう力を持っている。そのきっかけが完全には解明されていない(解明されれば膵炎は怖い病気ではなくなるだろう)。手術で触っても引っ張っても、怒らない時は怒らない。でも怒るときはほんとに怒る。可能な限り炎症を起こさないように配慮し、予防的にダルテパリンを投与し、あとは祈るだけ。
そんな臓器である膵臓に癌が居る。しかもはじっこではなく膵体部。場合によっては治療を諦める場所である。
しかしCTのお陰で今回は、切除可能と判断した。最も大事な副膵管、総胆管、動脈からはギリギリ切除できるゆとりがあった。計測では膵十二指腸動脈からわずか7mmだが、解剖学的にはもう少しゆとりある(はず)。あとは覚悟を決めて、手早く切除する。残る場所が怒り出さないように優しく、しかし早く病巣を取る。これには従来のほじる方法は危険だ。左葉ごと一括切断して、素早く切除すべきである。
外科医の覚悟はできた。しかしハイリスクであることに変わりはない。患者さん側にも命の覚悟をしていただく。双方覚悟できない場合には手を出してはならない手術である。
膵臓切断では、血管膵管の処理が重要となるが、ギロチン法と呼ばれる縫合糸による結紮やシーリング装置、電気的な焼烙などがある。どの方法も一定の確率で膵臓を怒らせるが、経験上、ヘモクリップが良い。今回はリーガクリップLを5発使用し、膵体部を切断した。板状の構造を素早く確実にそしてやさしく結紮しながら切断する。
外科医の覚悟はできた。しかしハイリスクであることに変わりはない。患者さん側にも命の覚悟をしていただく。双方覚悟できない場合には手を出してはならない手術である。
膵臓切断では、血管膵管の処理が重要となるが、ギロチン法と呼ばれる縫合糸による結紮やシーリング装置、電気的な焼烙などがある。どの方法も一定の確率で膵臓を怒らせるが、経験上、ヘモクリップが良い。今回はリーガクリップLを5発使用し、膵体部を切断した。板状の構造を素早く確実にそしてやさしく結紮しながら切断する。
人では、膵体部を切除し、膵左葉の膵管を空腸へ縫合する「マイクロサージェリー」が行われるそうだが、まだ獣医では患者さんに適応できるレベルにない。幸い、膵臓は肝臓のように強い臓器であり、90%まで切除しても消化、血糖制御に影響はでない。
膵体部から左葉の一括切除。手術はイメージ通り、予定通り終わった。あとは膵臓が怒り出さないように祈るばかり。
1週間後、経過を聞いた。2日目に多少炎症反応が出たようだが、膵臓が怒り出すことはなかったそうだ。手術は、家に無事帰るまでが手術。緊張が、ようやく解けた。
1週間後、経過を聞いた。2日目に多少炎症反応が出たようだが、膵臓が怒り出すことはなかったそうだ。手術は、家に無事帰るまでが手術。緊張が、ようやく解けた。